百条委員会報告書 知事のパワーハラスメントについて ― 2025-03-08 17:54
(1) 委員会としての判断
ア 認められる事実
知事のパワーハラスメントについて
㋐ 齋藤知事は、令和3年9月頃、朝刊に載っていた尼崎のフェニックス用地に万博資材の運搬拠点を設ける方針を固めたという記事について、「こんな話は聞いていない」と机を叩きながら声を荒げて怒った。
㋑ 令和5年5月、施設の開設について、齋藤知事に説明したところ、「こんな話聞いていない」と叱責があり、令和5年度当初予算の記者発表資料を見せたところ、「これで知事が知っていると思うなよ」という強い叱責が再びあり、開所式のスケジュールを変更せざるを得なくなった。
㋒ 齋藤知事は、令和4年10月のイベントで、更衣室に見知らぬ男性がいたため驚いて、事前に確認して更衣室を用意しておくべきだったのではないかと職員に注意した。
㋓ 齋藤知事は、令和5年11月の東播磨地域づくり懇話会において、エントランスにつながる通路の車止めの手前で知事公用車が停車して車から降りてきた時に、「なんでこんなところに車止めを置いたままにしているんや」と県幹部職員に対し怒鳴った。当該職員は、非常に強い叱責のため頭の中が真っ白になった状態で車止めを移動させた。知事は、職員が車止めを移動させた後も非常に強い叱責をした。職員は、社会通念上、業務に必要な範囲の指導とは思わず、理不尽な叱責を受けたと感じた。その後、知事が会場を後にする際、職員に対し、謝罪やねぎらいはなかった。
㋔ 齋藤知事は、片山氏に対し、令和6年3月上旬頃、県立大学の無償化の国会議員等への根回しに、すぐ動くようにと指示したことを片山氏が忘れていたことに怒り、アクリル板に向けて付箋を投げた。
㋕ 齋藤知事は、所管課長に対し、令和5年1月の知事協議の際に、政務調査会資料に記載のあった所管事業が朝刊に載っていた記事を見て、「大阪府と連携すると書いている。これ聞いてへん。この事業は知事直轄なんだから勝手にやるな」と、かなり厳しい口調で叱責し、「やり直し」と所管課長を知事室から退室させた。所管課長は再度、知事に説明しようと何度も秘書課に伝えたが、説明の機会がなかった。所管課長は1年で異動した。
㋖ 齋藤知事は、令和5年度、複数の幹部職員との間で、全部で4,885件のチャットのやり取りをし、そのうち約44%の2,165件が夜間や休日に送られた。
イ 事実に対する評価
齋藤知事が、執務室や出張先で職員に強い叱責をしたことは事実と評価でき、文書内容は概ね事実であったと言える。
齋藤知事の「業務上必要な範囲で指導や注意をした」との証言に対して、叱責を受けた側の証言では、事情を確認されることなく「社会通念上必要な範囲とは思わなかった」「指導として必要のない行為」「理不尽な𠮟責だった」、「県職員になってこれまでないというぐらいの叱責を受けた」や、「県庁での職員生活の中で、机をたたいて怒鳴られたというようなことが初めてだった」、他の職員がいる前で「頭が真っ白になるほどの叱責」、さらに「異動させられるという予感のもと実際に1年で異動させられ理不尽と感じた」「トータルに見てパワーハラスメントと評価できる事案かなと思った」等の証言があったことを踏まえると、「パワハラを受けた」との証言は無かったものの、パワハラ防止指針が定めるパワハラの定義である「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」に該当する可能性があり、不適切な叱責があったと言わざるを得ない。
県事業がテレビで取り上げられた件であるが、県の事業は膨大にあるため、テレビで知事の知らないことが取り上げられることもあり、「聞いていない」ことを理由に職員を叱責することは妥当性を欠いた行為である。仮に叱責することがあるとすれば、テレビでの県職員の説明に大きな過失があり、県に損害を生じさせる恐れがあった場合などが考えられるが、証言等で明らかになったケースは、そのような場合にあたらない。
知事協議の際の叱責であるが、部局の説明をよく聞いていない、あるいは聞いていても失念していると思われる事業に対して、全く知らないということで、説明する機会も与えずに「聞いていない」と叱責するとの証言が複数あったことから、事業への関心の度合によって、認識の深さに差が生じていると思われる。また、部局の説明時に齋藤知事は別のことをしているなど、説明を真剣に聞いていないと感じたとの証言があったことも踏まえ、どの事業も同じ目線で担当課の説明を聞くという姿勢が欠けており、知事としての対応に疑問が残る。
考古博物館で20m歩かされた件に関連して、齋藤知事の発言から行程管理を重要視していることは理解できる一方で、知事自身が朝の予定時間によく遅れてくる、また、その際に謝らないこともあるとの証言もあることから、部下には高い水準を課しながら、自分はその基準を守らず特別扱いとする態度は、公平性と信頼を損なう言動であり、本来は模範となるべき知事の取る言動ではない。また、齋藤知事は車から降りるなり、対応した職員に対し、車止めをしている理由を聞くこともなく、大声で叱責をしている。職員からすれば、車止めを入り口から20m離れたところに設置したことは会場施設のルール上やむを得ないものであり、車止めを認識した後も強い叱責することは不合理であり、極めて理不尽な叱責であると言える。
叱責の際に付箋を投げる行為は、知事という立場に鑑みると、投げたものの形状にかかわらず、その行為自体威圧的なものであり、副知事その他職員を萎縮させるものである。
齋藤知事の非常に強い叱責や理不尽な言動によって、職員が齋藤知事に忖度せざるを得ず、救護室・授乳室を知事の控室にしたり、車両が通行できない範囲に知事公用車を通行させたりする等、ルールに則った県民本位の職務遂行が叶わなくなっている面があり、極めて深刻な事態が確認できた。
また、強い叱責を受けた当事者本人の就業環境に明らかな影響がなくとも、実際に見聞きしている同僚への心理的負担や組織の閉塞感につながり、適切な職場環境を構築するべき組織のトップの言動としては極めて不適切である。
さらに、職員の証言や提出資料によると、齋藤知事から幹部職員へのチャットの数は膨大なもので時間外や休日問わず頻繁に送られていた。1年間に複数の幹部職員との間で夜間、休日などの業務時間外のチャット数は2,165件と多く、その内容については業務上必要性が認められるものもあるが、夜間や休日に送信しなくても問題ないと思われるものもあった。もっとも、夜間、休日の送信頻度や「返信不要」などの配慮がないこと、チャットでの反応がない時に関係職員に業務時間外に電話をかける行為もあり、緊急性を要しないにもかかわらず、夜間や休日にクイックレスポンスを求めることは働き方改革が求められる今日において、前時代的な仕事のやり方であると言わざるを得ず、業務の適正な範囲を超えたものであり、就業環境を害されているといえる。また、チャットのグループ内で叱責するなど一部の内容については、職員らの過度な精神的負担になっていたと考えられる。
以上のように、齋藤知事の言動、行動については、パワハラ行為と言っても過言ではない不適切なものだった。
(2) 提言
証言にもあるように、明らかに業務上必要な叱責ではなかったことも認められるが、齋藤知事は「業務上必要な範囲で指導や注意をした」との認識を変えていない。業務上必要な範囲ではない、不適切な指導が複数あったということをまずは知事自身が認めることが重要であり、言動を真に改める姿勢を持たなければならない。
一方で、昨年4月4日付けの職員公益通報事案の調査結果及び公益通報委員会の審議等を踏まえ、12月11日に「県民の信頼確保に向けた改善策の実施」の中でハラスメント研修の充実として組織マネジメント力向上特別研修の実施が是正措置として記者発表され、一定の措置が講じられており、是正する必要があるとの認識が示されていると考えられる。
知事当局に以下のことを求める。
・知事、副知事などの特別職を含め管理職等のアンガーマネジメント研修などを行い、風通しの良い職場環境が確立できているか定期的に検証する仕組みを取り入れること。
・チャットやメールについては、特に夜間や休日に指示をする際には、緊急性を要する用件のものに限るか、緊急性がないチャットやメールには即時の返信を必要としない、あるいは返信を求めないなど取り扱いを定めること。
・齋藤知事は、組織のトップとして、自身の言動が組織に及ぼす影響を常に意識するとともに、多様な意見に耳を傾けることで率先して働きやすい職場づくりに努めること。
報告書全文
https://web.pref.hyogo.lg.jp/gikai/iinkai/index/tokubetsu/bunsho/documents/bunshohoukokusho.pdf
ア 認められる事実
知事のパワーハラスメントについて
㋐ 齋藤知事は、令和3年9月頃、朝刊に載っていた尼崎のフェニックス用地に万博資材の運搬拠点を設ける方針を固めたという記事について、「こんな話は聞いていない」と机を叩きながら声を荒げて怒った。
㋑ 令和5年5月、施設の開設について、齋藤知事に説明したところ、「こんな話聞いていない」と叱責があり、令和5年度当初予算の記者発表資料を見せたところ、「これで知事が知っていると思うなよ」という強い叱責が再びあり、開所式のスケジュールを変更せざるを得なくなった。
㋒ 齋藤知事は、令和4年10月のイベントで、更衣室に見知らぬ男性がいたため驚いて、事前に確認して更衣室を用意しておくべきだったのではないかと職員に注意した。
㋓ 齋藤知事は、令和5年11月の東播磨地域づくり懇話会において、エントランスにつながる通路の車止めの手前で知事公用車が停車して車から降りてきた時に、「なんでこんなところに車止めを置いたままにしているんや」と県幹部職員に対し怒鳴った。当該職員は、非常に強い叱責のため頭の中が真っ白になった状態で車止めを移動させた。知事は、職員が車止めを移動させた後も非常に強い叱責をした。職員は、社会通念上、業務に必要な範囲の指導とは思わず、理不尽な叱責を受けたと感じた。その後、知事が会場を後にする際、職員に対し、謝罪やねぎらいはなかった。
㋔ 齋藤知事は、片山氏に対し、令和6年3月上旬頃、県立大学の無償化の国会議員等への根回しに、すぐ動くようにと指示したことを片山氏が忘れていたことに怒り、アクリル板に向けて付箋を投げた。
㋕ 齋藤知事は、所管課長に対し、令和5年1月の知事協議の際に、政務調査会資料に記載のあった所管事業が朝刊に載っていた記事を見て、「大阪府と連携すると書いている。これ聞いてへん。この事業は知事直轄なんだから勝手にやるな」と、かなり厳しい口調で叱責し、「やり直し」と所管課長を知事室から退室させた。所管課長は再度、知事に説明しようと何度も秘書課に伝えたが、説明の機会がなかった。所管課長は1年で異動した。
㋖ 齋藤知事は、令和5年度、複数の幹部職員との間で、全部で4,885件のチャットのやり取りをし、そのうち約44%の2,165件が夜間や休日に送られた。
イ 事実に対する評価
齋藤知事が、執務室や出張先で職員に強い叱責をしたことは事実と評価でき、文書内容は概ね事実であったと言える。
齋藤知事の「業務上必要な範囲で指導や注意をした」との証言に対して、叱責を受けた側の証言では、事情を確認されることなく「社会通念上必要な範囲とは思わなかった」「指導として必要のない行為」「理不尽な𠮟責だった」、「県職員になってこれまでないというぐらいの叱責を受けた」や、「県庁での職員生活の中で、机をたたいて怒鳴られたというようなことが初めてだった」、他の職員がいる前で「頭が真っ白になるほどの叱責」、さらに「異動させられるという予感のもと実際に1年で異動させられ理不尽と感じた」「トータルに見てパワーハラスメントと評価できる事案かなと思った」等の証言があったことを踏まえると、「パワハラを受けた」との証言は無かったものの、パワハラ防止指針が定めるパワハラの定義である「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」に該当する可能性があり、不適切な叱責があったと言わざるを得ない。
県事業がテレビで取り上げられた件であるが、県の事業は膨大にあるため、テレビで知事の知らないことが取り上げられることもあり、「聞いていない」ことを理由に職員を叱責することは妥当性を欠いた行為である。仮に叱責することがあるとすれば、テレビでの県職員の説明に大きな過失があり、県に損害を生じさせる恐れがあった場合などが考えられるが、証言等で明らかになったケースは、そのような場合にあたらない。
知事協議の際の叱責であるが、部局の説明をよく聞いていない、あるいは聞いていても失念していると思われる事業に対して、全く知らないということで、説明する機会も与えずに「聞いていない」と叱責するとの証言が複数あったことから、事業への関心の度合によって、認識の深さに差が生じていると思われる。また、部局の説明時に齋藤知事は別のことをしているなど、説明を真剣に聞いていないと感じたとの証言があったことも踏まえ、どの事業も同じ目線で担当課の説明を聞くという姿勢が欠けており、知事としての対応に疑問が残る。
考古博物館で20m歩かされた件に関連して、齋藤知事の発言から行程管理を重要視していることは理解できる一方で、知事自身が朝の予定時間によく遅れてくる、また、その際に謝らないこともあるとの証言もあることから、部下には高い水準を課しながら、自分はその基準を守らず特別扱いとする態度は、公平性と信頼を損なう言動であり、本来は模範となるべき知事の取る言動ではない。また、齋藤知事は車から降りるなり、対応した職員に対し、車止めをしている理由を聞くこともなく、大声で叱責をしている。職員からすれば、車止めを入り口から20m離れたところに設置したことは会場施設のルール上やむを得ないものであり、車止めを認識した後も強い叱責することは不合理であり、極めて理不尽な叱責であると言える。
叱責の際に付箋を投げる行為は、知事という立場に鑑みると、投げたものの形状にかかわらず、その行為自体威圧的なものであり、副知事その他職員を萎縮させるものである。
齋藤知事の非常に強い叱責や理不尽な言動によって、職員が齋藤知事に忖度せざるを得ず、救護室・授乳室を知事の控室にしたり、車両が通行できない範囲に知事公用車を通行させたりする等、ルールに則った県民本位の職務遂行が叶わなくなっている面があり、極めて深刻な事態が確認できた。
また、強い叱責を受けた当事者本人の就業環境に明らかな影響がなくとも、実際に見聞きしている同僚への心理的負担や組織の閉塞感につながり、適切な職場環境を構築するべき組織のトップの言動としては極めて不適切である。
さらに、職員の証言や提出資料によると、齋藤知事から幹部職員へのチャットの数は膨大なもので時間外や休日問わず頻繁に送られていた。1年間に複数の幹部職員との間で夜間、休日などの業務時間外のチャット数は2,165件と多く、その内容については業務上必要性が認められるものもあるが、夜間や休日に送信しなくても問題ないと思われるものもあった。もっとも、夜間、休日の送信頻度や「返信不要」などの配慮がないこと、チャットでの反応がない時に関係職員に業務時間外に電話をかける行為もあり、緊急性を要しないにもかかわらず、夜間や休日にクイックレスポンスを求めることは働き方改革が求められる今日において、前時代的な仕事のやり方であると言わざるを得ず、業務の適正な範囲を超えたものであり、就業環境を害されているといえる。また、チャットのグループ内で叱責するなど一部の内容については、職員らの過度な精神的負担になっていたと考えられる。
以上のように、齋藤知事の言動、行動については、パワハラ行為と言っても過言ではない不適切なものだった。
(2) 提言
証言にもあるように、明らかに業務上必要な叱責ではなかったことも認められるが、齋藤知事は「業務上必要な範囲で指導や注意をした」との認識を変えていない。業務上必要な範囲ではない、不適切な指導が複数あったということをまずは知事自身が認めることが重要であり、言動を真に改める姿勢を持たなければならない。
一方で、昨年4月4日付けの職員公益通報事案の調査結果及び公益通報委員会の審議等を踏まえ、12月11日に「県民の信頼確保に向けた改善策の実施」の中でハラスメント研修の充実として組織マネジメント力向上特別研修の実施が是正措置として記者発表され、一定の措置が講じられており、是正する必要があるとの認識が示されていると考えられる。
知事当局に以下のことを求める。
・知事、副知事などの特別職を含め管理職等のアンガーマネジメント研修などを行い、風通しの良い職場環境が確立できているか定期的に検証する仕組みを取り入れること。
・チャットやメールについては、特に夜間や休日に指示をする際には、緊急性を要する用件のものに限るか、緊急性がないチャットやメールには即時の返信を必要としない、あるいは返信を求めないなど取り扱いを定めること。
・齋藤知事は、組織のトップとして、自身の言動が組織に及ぼす影響を常に意識するとともに、多様な意見に耳を傾けることで率先して働きやすい職場づくりに努めること。
報告書全文
https://web.pref.hyogo.lg.jp/gikai/iinkai/index/tokubetsu/bunsho/documents/bunshohoukokusho.pdf
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